基本合意書の読み方とは?法的拘束力の有無、独占交渉権及び書式

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基本合意書の読み方に関するメインのページです。本ページは、M&Aの交渉の途中で交わす基本合意書について、拘束力を持つ条項と持たない条項、独占交渉権の定め及び当事務所の書式による条項例をご説明します。

▶ 株式譲渡契約書の条項を売主の側から読む方法

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買主候補との面談を重ね、最終契約の前に基本合意書を交わす段階に入った。買主から案文が届いたものの、どの条項に法的拘束力があり、どの条項が売主に不利なのか、署名してよいのかが分からない。本記事は、そのような売主の方と、これから案文を作成しようとしている買主の方に向けたものです。

先に結論を申し上げます。基本合意書は「拘束力のない覚書」とは限りません。独占交渉権、秘密保持、デュー・ディリジェンスへの協力、費用の負担などは、拘束力を持たせるのが通例です。署名の前に、拘束力の範囲、独占交渉の期間、価格の記載の仕方、費用の負担の4点を確認してください。

本記事では、条項ごとの読み方と、売主と買主のいずれに有利に働くかを整理し、当事務所の基本合意書の書式を条項例として掲載します。基本合意書の全体像は基本合意書(MOU・LOI)とは?M&Aでの記載事項と法的拘束力を、署名してよいかの判断の手順はM&Aの基本合意書への署名にお困りではありませんかをご覧ください。

基本合意書とは何を定める書面か

基本合意書は、買主候補による買収の意思がある程度固まった段階で、売主と買主が取引の基本的な枠組みを確認する書面です。対象となる株式、予定する譲渡価格、その後の手続の進め方、独占交渉権、秘密保持などを定めます。

前段階には、買主が一方的に買収の意向を示す意向表明書があります。意向表明書は買主が差し入れる書面であり、双方が署名する基本合意書とは性質が異なります。意向表明書の読み方はLOI(レターオブインテント)とは?M&Aでの意味やMOUとの違い・記載項目・法的拘束力まで解説で扱っています。

基本合意書の後には、買主によるデュー・ディリジェンスが行われ、その結果を踏まえて株式譲渡契約書が締結されます。表明保証、補償、クロージングの前提条件などの詳細は、最終契約である株式譲渡契約書で定めます。株式譲渡契約書の構成は株式譲渡契約書(SPA)とは?記載事項と作成時やテンプレート利用時の注意点を解説をご覧ください。

締結する意義

基本合意書を締結する意義は、主に次の3点にあります。

  • それまでの交渉の到達点を書面で確認し、後の交渉で前提が蒸し返されることを防ぐこと
  • 買主が費用をかけてデュー・ディリジェンスに進むにあたり、独占交渉権によって他の買主候補との競合を一定期間止めること
  • 秘密保持や対象会社の現状の維持など、最終契約までの間の双方の行動の約束を明確にすること

買主にとっては、デュー・ディリジェンスの費用を投じる前の安心材料になります。売主にとっては、買主の本気度を確かめ、価格の目安を書面に残せる点に意味があります。

拘束力を有する条項と有しない条項

基本合意書では、条項ごとに法的拘束力の有無を定めるのが一般的です。「法的拘束力」の条項を置き、どの条を拘束力のある条項とするかを明記します。この条項を読まずに署名しますと、想定外の義務を負うおそれがあります。

条項ごとの一覧

条項拘束力の通例読み方の要点
本件取引と譲渡価格有しない最終契約を締結する義務や価格の確定を意味しないことを確認します
最終契約の締結に向けた努力有する例もある努力の義務にとどまり、締結そのものを強制するものではありません
デュー・ディリジェンスへの協力有する協力の範囲と方法を限定できるかが要点です
独占交渉権有する期間と違反の効果を必ず確認します
対象会社の現状の維持有する通常の業務の範囲まで制約されないかを確認します
秘密保持有する合意書の終了後も存続するのが通例です
費用の負担、有効期間、準拠法、管轄有する費用は各自の負担とするのが原則です

拘束力がなくても負う配慮の義務

拘束力のない条項であっても、何をしてもよいわけではありません。民法第1条第2項は、権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実に行わなければならないと定めています。

交渉が相当程度進み、相手方が契約の成立を当然に期待する段階に至った後に、正当な理由なく一方的に交渉を打ち切りますと、信義則上の責任として、相手方が支出した費用などの賠償を求められる場合があります。いわゆる契約締結上の過失の考え方です。もっとも、交渉の破棄が直ちに違法となるわけではなく、交渉の経過や打切りの理由によって判断が分かれます。

売主としては、価格や条件が折り合わずに交渉を終える可能性があるのであれば、その理由を記録に残し、書面で丁寧に伝えることが大切です。

独占交渉権に関する条項

独占交渉権は、基本合意書の中で売主に最も重い制約を課す条項です。独占交渉の期間中、売主は他の買主候補と交渉できなくなります。

期間

期間は、デュー・ディリジェンスと最終契約の交渉に必要な期間を見込んで定めます。売主にとっては、期間が長いほど他の買主候補を失う危険が高まります。「最終契約の締結の日まで」のように終期が定まらない書き方は避け、例えば「令和〇年〇月〇日まで」と具体的な日付で区切ることが望ましいといえます。

自動更新

「いずれかの当事者から申出がない限り自動的に更新する」との定めは、売主にとって不利に働きます。延長が必要な場合は、その都度、書面で合意して延長する形にとどめるのが安全です。

違反の効果

独占交渉義務に違反した場合の主な効果は、損害賠償です。違約金を定める案文もあります。違約金の定めがあると、実際の損害の立証を要せずに一定額の支払義務を負うことになりますので、売主は金額と発生の条件を慎重に確認してください。

あわせて、買主の側の事情で交渉が進まない場合に、売主が独占交渉の拘束から離れられる定めがあるかも確認します。

価格及び価格の調整に関する条項

基本合意書に譲渡価格を記載する場合、その価格はデュー・ディリジェンスの結果により調整されることがあると定めるのが通例です。ここに売主の注意点があります。

調整の事由が限定されていないと、デュー・ディリジェンスの後に、さまざまな理由を挙げて大幅な減額を求められる余地が生じます。売主としては、次のような書き方を検討します。

  • 価格の算定の前提とした財務数値や事業計画を明記し、調整はその前提と異なる事実が判明した場合に限る
  • 調整の対象となる事項を、デュー・ディリジェンスで判明した重要な事実に限る
  • 減額を求める場合には、根拠を書面で示すことを求める

買主の立場では、調整の余地を広く残しておきたいところです。いずれの立場でも、後の紛争を防ぐには、価格の前提を書面に残しておくことが有益です。

デュー・ディリジェンスへの協力に関する条項

多くの案文は、売主が自ら及び対象会社をしてデュー・ディリジェンスに協力する義務を定めています。この義務には拘束力が持たされるのが通例です。

売主が確認すべき点は、協力の範囲です。資料の開示の方法、役員や従業員への聞取りの時期、取引先や金融機関への接触の可否を事前に取り決めておかないと、情報が早い段階で社内外に広がるおそれがあります。取引先への直接の接触は売主の事前の承諾を要するとするなど、方法を限定する定めを置くことを検討してください。

費用の負担に関する条項

費用は、売主と買主がそれぞれ支出したものを各自で負担するのが原則です。

ところが、案文の中には、取引が成立しなかった場合に、買主が支出したデュー・ディリジェンスの費用や専門家の報酬を売主に負担させる定めが含まれていることがあります。売主としては、このような定めは受け入れず、各自の負担とするよう修正を求めるべきです。取引が成立しなかった理由を問わず負担を求める定めは、とりわけ売主に不利です。

有効期間及び終了

基本合意書には有効期間を定めます。有効期間を過ぎても最終契約が締結されない場合には、合意書は終了し、独占交渉権も消滅するのが通例です。秘密保持の条項は終了後も存続すると定めます。

解除の条項については、相手方に義務の違反があった場合に、書面で是正を催告し、相当の期間内に是正されないときに解除できるとする形が一般的です。延長は書面による合意によるものとし、自動的に延びる定めは避けます。

条項ごとの記載例と読み方

以下は、当事務所が作成した基本合意書の書式を条項例として整理したものです。株式譲渡により発行済株式の全部を譲渡する場合を想定しています。M&Aの案件は個別の事情が大きく異なりますので、このまま使用することはお勧めしません。必ず個別の案件に合わせて調整してください。

【条項例】基本合意書

____(以下「売主」という。)と株式会社____(以下「買主」という。)とは、株式会社____(以下「対象会社」という。)の発行済株式の全部(以下「対象株式」という。)を買主が買い受けることに関し、令和〇年〇月〇日付で、以下のとおり基本合意書(以下「本合意書」という。)を締結する。

  1. 第1条(本件取引) 売主は対象株式を買主に売り渡し、買主はこれを買い受けること(以下「本件取引」という。)につき、基本的に合意する。対象株式の対価は総額__円(1株__円)(以下「譲渡価格」という。)とする。売主及び買主は、譲渡価格が買収監査の結果に従い調整されることがあることを確認する。クロージング日、支払方法、前提条件、表明及び保証、遵守事項、補償その他の条件は、最終契約において定める。
  2. 第2条(最終契約の締結) 売主及び買主は、本合意書の有効期間の最終日までに、本件取引の条件の詳細を定めた最終契約を締結するよう、最大限努力する。
  3. 第3条(買収監査) 買主は、対象会社の事業、資産、負債、財務、法務、税務その他の状況を把握し本件取引の条件を決定するため、買主及びその指定する者により監査(以下「買収監査」という。)を実施することができる。売主は、自ら及び対象会社をして、買収監査に協力する。
  4. 第4条(独占交渉権) 買主は、本合意書の有効期間中、最終契約の締結の日又は本合意書の終了の日のいずれか早い日までの期間(以下「独占交渉期間」という。)、売主と独占的に交渉することができる。売主は、独占交渉期間中、買主以外の第三者との間で、本件取引と競合する取引について、提案、情報の提供、交渉及び合意をしてはならない。
  5. 第5条(誠実交渉) 売主及び買主は、最終契約の締結に向けて、信義に従い誠実に交渉及び協議を行う。
  6. 第6条(善管注意義務) 売主は、独占交渉期間中、対象会社をして、善良な管理者の注意をもって対象会社の財産を保全し管理させ、経営状態に重大な影響を及ぼし得る意思決定を行う場合には、事前に買主の同意を得させる。
  7. 第7条(秘密保持) 売主及び買主は、本件取引に関し相手方から開示された情報を、同等の秘密保持義務を負う弁護士、公認会計士、税理士その他の外部の専門家を除き、第三者に開示してはならない。ただし、既に保有していた情報、既に公知であった情報、正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに取得した情報、法令又は官公署の要請により開示が求められる情報、及び開示者が書面で承諾した情報は、この限りでない。本条は、本合意書の終了後も効力を有する。
  8. 第8条(有効期間) 本合意書の有効期間は、締結の日から令和〇年〇月〇日までとする。売主及び買主は、書面による合意により有効期間を延長することができる。
  9. 第9条(解除) 売主又は買主は、相手方が本合意書上の義務に違反し、書面による催告の後相当の期間内に是正しないとき、又は相手方について破産手続開始その他の法的倒産手続の申立てがあったときは、本合意書を解除することができる。
  10. 第10条(法的拘束力) 本合意書の各条項は、第1条を除き、法的拘束力を有する。
  11. 第11条(費用) 本合意書及び本件取引に関する費用は、売主及び買主がそれぞれ支出したものを各自が負担する。
  12. 第12条(譲渡禁止) 売主及び買主は、相手方の書面による事前の同意なく、本合意書上の地位又は権利義務を第三者に譲渡し、又は担保に供してはならない。
  13. 第13条(準拠法及び管轄) 本合意書は日本法に準拠する。本合意書に関する紛争は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
  14. 第14条(協議) 本合意書に定めのない事項又は解釈に疑義が生じた事項は、売主及び買主が誠実に協議して解決する。

本合意書の成立を証するため、本書2通を作成し、売主及び買主が記名押印の上、各1通を保有する。

この書式は、第1条のみを拘束力のない条項とし、その余の条項に拘束力を持たせています。第2条は最大限努力する義務にとどまり、最終契約の締結そのものを義務付けるものではありません。売主の立場で修正を検討する主な箇所は、第1条の価格の調整の事由、第3条の協力の方法、第4条の期間です。買主の立場では、第6条で制約する意思決定の範囲を具体的に列挙しておくと、運用が明確になります。

基本合意書を締結しないという選択

基本合意書は、M&Aで必ず締結しなければならない書面ではありません。案件の規模や交渉の経過によっては、意向表明書と秘密保持契約書だけで手続を進め、直接株式譲渡契約書の交渉に入ることもあります。

売主にとって、独占交渉権を与えないまま複数の買主候補と並行して交渉を続けられる点は利点です。他方で、買主がデュー・ディリジェンスに費用をかけることをためらい、手続が進まなくなることもあります。仲介会社から締結を当然の前提として求められた場合でも、締結の要否と内容は売主自身が判断できる事柄です。売主の側の実務は基本合意書の締結 法的拘束力の有無、独占交渉権及び有効期間の定め方でも紹介しています。

署名の前に確認する事項

案文を受け取ったら、署名の前に次の点を確認してください。

  1. 法的拘束力の条項で、どの条に拘束力があるとされているか
  2. 独占交渉の期間が具体的な日付で区切られ、自動更新の定めがないか
  3. 譲渡価格の調整の事由が限定されているか
  4. デュー・ディリジェンスへの協力の方法、とりわけ取引先や従業員への接触が限定されているか
  5. 取引が成立しなかった場合に、買主の費用を売主が負担する定めがないか
  6. 違約金の定めがないか、ある場合はその金額と発生の条件

1つでも判断に迷う点があれば、署名を急がず、修正の申入れを検討してください。基本合意書の段階で受け入れた条件は、最終契約の交渉にも影響します。

当事務所の関与

当事務所は、基本合意書の案文を受け取った段階からご相談をお受けしています。案文の各条項について、拘束力の有無、売主に不利な定め、修正の案文をご説明し、買主や仲介会社への修正の申入れを支援します。買主の立場で案文を作成する場合のご相談にも対応しています。

基本合意書の段階で条件を整えておくことは、その後の株式譲渡契約書の交渉を円滑に進めることにつながります。署名の前に、まずはご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍の後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻いたしました。不動産投資信託の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する裁判において逆転判決を得ております。主として取り扱う分野は、M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務であります。詳しくは執筆者紹介を御覧ください。

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